旅の記憶

大学1年の夏休み、18歳で生まれて初めて一人旅に出た。

行き先は小笠原諸島。

“東京なのに世界で一番遠い”というただそれだけのロマンに駆られ、バスとフェリーで実に片道35時間、気付いた頃には最果てのような海の上にいた。

船室でたまたま隣になったお兄さんが宿すら決めずに来てしまったと言うので、もし泊まるところがなければうちで聞いてみますと電話番号をメモして渡すと、その夜すぐに連絡があった。

「相部屋のドミトリーが見つかって今からそこのみんなとウミガメの産卵見に行くんだけど、君もどう?」

そんな誘いにほいほい乗れば、もうそこからは流れるがままの日々。

シュノーケリングに無人島ツアー、夕暮れ時には展望台でクジラのジャンプに歓声をあげ、夜になったら島唯一のBARでお喋り。

「じゃあまた朝日で!」とベッドに倒れ、目が覚めたらまた展望台へ…

喰らいつくように夢中で遊んだ3泊6日。

自己紹介をしてみんなの名前を知ったのは、そういや帰りの船だった。

氏名年齢職業目的、そんなものは何の役にも立たない世界を知った。

 

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「必要なものはすべてわかってて、どこにでも行けるはずなんだけど、なんだかわかればわかるほどどこにも行けなくなってきたような気がします」

若い頃から休みの度に全国津々浦々を大型バイクで走りまくってきたという、福島で出会ったKAWASAKI紳士。

地図もケータイも必ず家に置いていくようにはしてるんだけどねと笑うその横顔は、会社を辞めて地元を離れ、さぁ人生これからだぜーと息巻く27歳の自分にはあまりに深く寂しく映った。

初めての旅から9年後、上手にならない方がいいこともあると教えてもらった。

小笠原で過ごしたあの夏から18年が経ち、今年で36歳、旅に出て以降の暮らしがようやく人生のベースになろうとしている。

原付を借りて島一周、ヤギがいた丘、海が見えた下り坂、恐る恐る分け入ったジャングルの先のどこまでも丸い水平線。

当時の記憶は一色たりとも褪せることなく、始まりの場所としていまもくっきりこの胸にある。

初めての旅はまだ続いている。

慣れずこなさず上手にならず、さーてこの先どこまでいけるかな。

初めての旅を繰り返そう、初めての旅を何度でも。